(注意喚起)民間でおこなわれている脊髄損傷への再生医療について
脊髄損傷者およびご家族の皆さま
脊髄損傷者にかかわられる皆さま
日本脊髄障害医学会会員各位
昨今、SNS上などで、脊髄損傷や脳卒中などの後遺症に対する再生医療と称する行為の広告が行われています。そこでは、再生医療等安全性確保法に基づき再生医療等技術が提供されていますが、「厚生労働省の承認を正式に受けて、再生医療を提供」など、あたかも厚生労働省が承認しているかのように表記している場合があります。現在の再生医療等安全性確保法では、再生医療等技術は厚生労働省への「届出」を経て実施されるものです。「届出」は行政側が定める一定事項を通知するだけであり、その内容を満たす資料の提出によって手続きが完了するもので、質の良し悪しといった判断が入ることがありません。脊髄損傷や脳卒中などの後遺症に対する再生医療について、その効果を厚生労働省が検証し、保証したものでは全くありません。日本再生医療学会でも「再生医療等の自由診療における広告に関する注意喚起について」において同様の懸念を表明しています。
日本脊髄障害医学会としても、こうした表記は、脊髄損傷や脳卒中の後遺症に苦しみ、助けを求めている方々が誤解を抱く危険性が高い不誠実な行為として、到底容認できません。正しく効果が確認された治療はSNSなどで広告されることはありません。
日本では、再生医療を含めた脊髄損傷に対する革新的な治療の開発が精力的に進められています。そこでは、動物実験により効果を確認した上で、厚生労働省などとの協議や慎重な倫理審査を経て、ヒトへの適応が検討されます。適応ができるとなっても、厳格な手続き、手法のもとで実施され、効果が厳正に判定されます。その結果に基づき、治療をおこなうことによる利益・不利益を慎重に判断し、科学的・倫理的に妥当であり、国際的評価に耐えられる結果が出てはじめて、本格的に臨床で使用できるようになります。動物を用いた研究で良好な結果が得られる方法は数多くありますが、苦しまれている方々の手になかなか届かないのは、このような理由があります。
日本脊髄障害医学会は、再生医療委員会★を設置しています。この委員会には脊髄損傷に対する再生医療研究を行っている主な施設の研究者が参加し、情報の交換と臨床研究促進のための下地作りを行っています。脊髄損傷治療について、民間には様々な情報が流布されておりますが、ほとんどが極めて薄弱な根拠に基づくものでしかありませんので、慎重にご判断ください。ご不明な点などがございましたら、日本脊髄障害医学会にお問い合わせください。
★村山医療センターの院長も再生医療委員会の一員となっております。