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コロナワクチン副反応調査レポート3 -医療従事者先行接種を対象とした最初の報告-


医局秘書アルーナの報告

コロナワクチン副反応調査レポート皆さまお疲れ様です。

 第1回第2回と、ワクチンの副反応について、出現率や性差、年齢差について報告いたしました。これからワクチンを受けられる方の参考にしていただければと思います。今回は、ワクチンの免疫学的効果(ウイルスに対する抗体産生)についてのレポートです。

 村山医療センターでは、ワクチンの先行接種を受けた職員の中から希望者を募り、225人を対象として2回それぞれのワクチン接種後、血液中のウイルス抗体検査を行いました。検査の一部は、特別な実験室で本物の新型コロナウイルスを用いて行うもので、国立感染症研究所との共同研究により実現した貴重な測定値になります。

 これまで、ワクチンの効果についての報告は欧米人を対象としたものがほとんどでしたが、このレポートは日本人に対して先行的にワクチンが投与された医療従事者先行接種を対象とした最初の報告です。

コロナワクチン接種 医療従事者先行接種を対象とした最初の報告 コロナワクチン接種 医療従事者先行接種を対象とした最初の報告

新型コロナワクチンの効果と副反応 
第3回 ワクチンの免疫学的効果 〜抗体の産生について〜

臨床研究部長 吉原愛雄
治験管理室 葛岡朋代 沼田成美 我妻亜由美 松下愛美
看護部(感染管理担当) 佐々木恭兵
国立感染症研究所 血液・安全性研究部 水上拓郎 野島清子 関洋平 濵口功

 令和3年2月14日。ファイザー/BioNTech社製の新型コロナワクチンの製造販売が特例承認され、医療従事者、高齢者の順に全国でワクチン接種が進んでいます。当院はワクチンの副反応を調査する先行接種施設に選定され、2月から3月にかけて職員278人に対して先行的にワクチン接種が行われました。ワクチンの効果や副反応、さらには接種の是非について様々な意見がありましたが、昨今は全世界的にワクチンの有用性が理解されつつあると考えられます。
  当院では、先行接種として新型コロナワクチンを接種された職員に希望を募り、225人に対して1回目のワクチン接種後16日から3週の間と、2回目のワクチン接種後10日から2週の間に血液検査を行いワクチンの効果を調査しました。検査の一部は特別な実験室で実際の新型コロナウイルスを用いて行うもので、国立感染症研究所との共同研究により実現した貴重な測定値になります。以下に検査の解説と、集計結果を示します。

新型コロナウイルスのスパイク蛋白抗体価(S抗体価)

 新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるスパイクと呼ばれる部位が、ヒトの細胞表面と結合することにより感染が成立します。新型コロナワクチンは、まず人の体内でスパイクと同等の蛋白構造を作らせ、スパイク蛋白に対する免疫(抗体)を誘導してウイルス感染に対する防御能を獲得させます。

 新型コロナウイルスのスパイク蛋白抗体価(以下S抗体価)は、ワクチンにより誘導されたスパイク蛋白に対する抗体の総量を示します。即ち、ワクチン接種後にS抗体価が上昇していれば、免疫反応により感染防御能が高まったことが示唆されます。S抗体価の測定は外注検査として実施しました。0.8 U/mL未満は抗体陰性であり、新型コロナに感染した方々のS抗体価は、平均で約100 U/mLと報告されています1)

【ワクチン接種後のS抗体価】

コロナワクチン接種 医療従事者先行接種を対象とした最初の報告

  S抗体の測定結果をグラフに示しました。縦軸は対数表示を使っているので、一目盛りで値は10倍増加します。黒線は幾何平均値を示しています。グラフ左側、“1回目接種後”、225人中3人(1.3%)は0.8 U/mL(青線)以下の値となりS抗体陰性と診断されました。グラフ右側、“2回目接種後”、S抗体価は1回目接種後に比較して約50倍の上昇を認めました。2回目接種により全員がS抗体陽性となり、全員が新型コロナ既感染者の平均値(約100 U/mL)以上の値に上昇しました。2回目接種後の副反応は懸念される問題点ですが、2回接種による免疫学的効果は大きいと考えられます。

2) 新型コロナウイルスに対する中和活性値(中和抗体価)

ワクチンにより誘導、産生された抗体は様々であり、ウイルス感染を抑えるものもあれば、そうでないものもあります。即ち、前項1)で測定されたS抗体は、全てが感染防御として機能する訳ではありません。実際にウイルス感染を抑制することが出来る抗体を中和抗体(機能性抗体)と呼び、その強さを中和活性値(中和抗体価)と言います。中和活性は、ウイルス感染に対する実際の防御能を直接示す最も重要な値になります。測定は国立感染症研究所のBSL 3 実験室内で本物の新型コロナウイルスを用いて行われました。ウイルスと細胞に様々な希釈倍率の血清を加え、ウイルスによる細胞障害を100%阻止できる血清の最高希釈倍率を中和活性値としました。値が高いほどウイルス感染の防御能に優れていることになります。今回の測定は、検出限界を5倍、最高希釈倍率を640倍として行われました。

【ワクチン接種後の中和活性値】

コロナワクチン副反応調査レポート

 中和活性値の測定結果をグラフに示します。こちらも縦軸は対数表示を用いており、黒線は幾何平均値を示しています。グラフ左側、ワクチン1回目の接種後は、225人中74人(32.9%)が検出限界(5倍)以下となりました。新型コロナに感染した方々の中和活性値の平均は約10〜20倍で、ほとんどが5倍以上と報告されています2)。ワクチン1回目接種後の中和活性値はそれより低い値が多いという結果でした。グラフ右側、ワクチン2回目接種後では、中和活性値は約20倍の上昇を認め、全員が検出限界(5倍)以上の値となりました。中和活性においても、ワクチンの2回目接種の効果は大きいことが示唆されます。

3) スパイク蛋白抗体価(S抗体価)と中和活性値との関連


【S抗体価と中和活性値との関連】

コロナワクチン接種 医療従事者先行接種を対象とした最初の報告
 S抗体価と中和活性値の関連をグラフに示しました。縦軸、横軸ともに対数表示を用いています。両者の間には強い正の相関が認められました(p<0.001)。一方、S抗体価の値が同じであっても中和活性値にはかなりのばらつきが認められます。即ち、S抗体価の測定だけでは、ワクチンの効果を完全に計ることは難しいということになります。

[まとめ]

 

 1回目および2回目のワクチン接種により、日本人においても欧米人と同等の免疫学的効果が得られることが分かりました。

 1回目の接種後では、S抗体価陰性の方が1.3%に認められ、また中和活性値が検出限界以下の方が1/3を占めていましたが、2回目の接種後はS抗体価、中和活性ともに顕著に上昇し、ワクチン接種者全員が新型コロナ既感染者レベル以上の値に上昇することが確認されました。2回目のワクチン接種には強い副反応のリスクがありますが、現行どおり2回接種を行うことにより確実な感染防御能の獲得が期待できると考えられます。

 では、これらの抗体価や中和活性は、実際にワクチン接種後に生じた副反応と関連があるのでしょうか。次回は、ワクチンによる抗体産生と副反応との関連について、当院の解析結果を報告いたします。

引用文献
1) Charlotte Manisty, et al. : Lancet 397:1057-8, 2021
2) https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/2_suzuki.pdf

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