独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター

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トピック

椎間板ヘルニアに対する化学的融解術の成績  -コンドリアーゼは有用な選択肢-

村山医療センター
整形外科医師 松林 紘平

はじめに

 腰椎椎間板ヘルニアに対する化学的融解術の歴史は長く、1980年代には北米を中心として世界的に施行されていたキモパパイン椎間板内注入療法などもありましたが、キモパパイン療法については、タンパク分解酵素であり、コラーゲンを含めたタンパク全体を分解するため、線維輪、さらには血管・神経など周囲組織への影響による投与後の激烈な腰痛、不安定性の出現、硬膜外腔への漏出や硬膜内への誤注入による麻痺などの重篤な神経障害、さらに異種タンパク質であることに起因するアナフィラキシーなど副作用の報告が相次ぎ、現在は販売が中止されています。2018年に本邦では椎間板ヘルニアに対しての化学的融解術としてコンドリアーゼ(ヘルニコア®)を用いた椎間板内注入療法が認可されました。当院でもいままでにコンドリアーゼを用いた治療を行っており、現段階での治療成績などについて概説します。

腰椎椎間板ヘルニアとは

 腰椎椎間板ヘルニアとは、椎間板の変性を基盤として、髄核を取り囲んでいる線維輪の後方部分が断裂し、髄核ないしは線維輪の一部が後方に逸脱することにより発症し、腰痛や障害神経根領域の知覚異常や脱力感を生じるものです。稀に尿閉などの馬尾障害の症状を呈することもあります。歴史的には、当初は軟骨種(chondroma)として腫瘍の一部と考えられていたようですが、MixterとBarrが椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の概念を確立したといわれています。腰椎椎間板ヘルニアは腰椎後縦靭帯の最も薄い後外側に生じることが多く、その脱出の状態により4つに分類されており、線維輪の外層部が連続性を保っているものを膨隆・突出型(protrusion)、線維輪の外層部が完全断裂して膨隆したものを靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)、後縦靭帯を破り脊柱管内にヘルニア塊の一部が脱出したものを経靭帯脱出型(transligamentous extrusion)、ヘルニア塊が脊柱管内に遊離脱出したものを遊離型(sequestration)としています。治療方法は基本的には局所安静と鎮痛薬投与です。ただし、馬尾障害を示しているときには手術による除圧術を考慮する必要があります。特に膀胱直腸障害を伴う馬尾症候群に対しては48時間以内に除圧術を施行することが重要です。馬尾症候発症から48時間以後の手術例では、それ以前に手術をされたものに比べ、知覚障害、運動障害、排尿障害、直腸障害などが残存していたとの報告があります。また、保存療法に抵抗する神経根症についても高位診断と症状・所見が一致していれば手術による加療の適応となると考えられます。

椎間板ヘルニアに対するコンドリアーゼによる治療について

 コンドリアーゼ(コンドロイチナーゼABC)は、グラム陰性桿菌の一種であるProteus vulgarisから分離・精製されたグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)を分解する酵素です。

椎間板の髄核中にはプロテオグリカンが豊富に存在し、その構成成分としてグリコサミノグリカンが含まれています。こうしたグリコサミノグリカンやヒアルロン酸をコンドリアーゼが分解をすることにより髄核の保水能を低下させます。そのことで、椎間板内圧を低下させ、脊髄神経根への圧迫が軽減し、ヘルニアの臨床症状を改善させると考えられています。

コンドリアーゼの投与による治療の適応については保存療法で効果がなく、靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)のもの、そして神経学的所見による障害神経根が画像所見と一致しており、いままでにコンドリアーゼの使用経験がないものとなっています。コンドリアーゼの具体的な方法としては、X線透視下に椎間板高位を確認し、無菌操作で椎間板の中央に穿刺を行い、コンドリアーゼの投与を行います。外来での日帰りによる投与も可能ですが、当院では安全性を考慮して1泊2日で投与を行っています。

コンドリアーゼの治療成績

 当院ではコンドリアーゼの認可がされて以降、今までに40症例ほどの患者さんにコンドリアーゼを用いた治療を行いました。投与後3か月までのあいだに症状の改善が得られず、手術加療を行う必要のあった症例が10%ほどありましたが、コンドリアーゼの投与によりVAS(痛みの評価法)は有意に改善を認め、投与後3か月の時点で64%の症例でVAS≧20mm以上の改善が得られたという結果でした。報告では注射後にアレルギー症状がみられた症例がありますが、当院ではいままでにそういった有害事象のあった患者さんはおりません。今後、どのような症例に対しての投与が最も適しているかは検討が必要と考えられますが、保存療法に抵抗性の腰椎椎間板ヘルニアの患者さんには一つの選択肢として有用な方法であると考えられます。

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